カミとシモ

『らん』を見る前に、演技仕事つながりで『BLACK ANGELS』の話でもやっつけとこうかなと。そういえばアルバムの話も中途半端なところで止まってるなぁ。ツアーが終わったら生での印象も加えて書き直しましょうか、きっと来年の春までは「(オリジナルでは)最新アルバム」だろうし。



とっても好きなシーンがありまして。
麗羅が暗殺者稼業の(劇中では)最初の仕事をする一連のアクションシーン。



何か気づいたことは?
州*´・ v ・)<まいみちゃん・・・
ノソ*^ o゚)<やじーの脚は綺麗ナリねぇ・・・
ハイそこの二人、
(オ゚Д゚)<そんな・・・ヲタクみたいな口の利き方、おやめなさい
从・ゥ・从<Gファイター乗りがいるな
(オ゚Д゚)<なーんてお上手なんでしょうボク


大原則として、麗羅は画面左から右、舞台でいうところのシモ手からカミ手へ攻め込んでいくわけです。まるで雑魚モンスターを倒しながらステージボスへ向かっていくRPG*1のようなドキドキワクワク感のある名シーンだと思うわけですが、ものすごく計算されてるなーと舌を巻いたわけですよ。
視覚から受ける印象の大原則として、画面の右と左では右に位置する者が強く見える。画面左というのは弱い立場の者の位置なのですが、これを逆に利用すると、左から右へ攻め込んでいくことで、「負けるかもしれない」というドキドキ感と、勝ったときに「ああこの人は強いんだ」という印象を刻みつける。つまりアレですよ、



最後の直線の映像で左から右へ移動することになる、左回りの東京コースで勝ちまくるウオッカちゃんの姿が見た者の心に鮮明に焼きついているのと同じです(笑)。2009年安田記念なんて「負けるかもしれない」と思ったでしょ?



弱った雑魚に止めをさす時はちゃんと画面右に位置させ、斜め方向とはいえ画面手前側に掌打を突き出させて強さをより印象づける。うまいなぁ。


これが用心棒との対戦になると、

いきなり画面左からの強烈な一撃で、この用心棒強い! というのを鮮烈な印象をもって伝える。一番右にしっかりボスがいて、しかも必要以上に目立たないよう奥の方に配置しているのがまた心憎い。用心棒にせよ麗羅にせよ、誰かに殺し合いをさせられる立場である、と示す素晴らしいカットです。



画面右側から仕掛ける麗羅の攻撃が通じない! 顔が見える見えないも重要な要素。当然見える方が力関係は上。
このあともカットを細かく割ってスピード感を出しつつ、最終的に、



この一撃の動線は「左下→右上」となっているわけですが、同じものをどこかで見たことありません?




トミノ原理主義者のヲレ狂喜ヽ(゚∀゚)ノ
オマージュと決め付けるつもりはありませんが、内田英治監督は40歳だそうなので(ソースは舞台挨拶)、世代としてはドンピシャだよね。
他のシーンだと、エレベータの扉が開くと最初に始末された悪党が倒れてガコンガコン、ってのはうつ伏せと仰向けの違いこそあれラガー刑事殉職を思い出したりもしました。そういうネタを見つけるのも楽しいよね。


細かいところで原則を外さない手堅い演出、見せ方の方法論はこれだけにとどまるものでもなく、全編を通してツボを押さえた楽しいアクション映画に仕上げたと思うわけですよ。過去の舞美関係の出演作にはこのへんのツボを外しちゃうところもあった作品なども見受けられたので、見るまでは正直半信半疑で戦々恐々として、「まぁ二朗さんの二朗さんっぷりを楽しめればいいやぁ」くらいの気持ちでいたのですが、この麗羅アクションで安心できた部分は大きかったですね。



そのワンシーン、ワンカットで何を伝えようとしているか。立ち位置ひとつでもそれが読み取れるわけで、これもまた鑑賞法のひとつ、よろしければお試しあれ。


せっかくなので、位置関係に注目してみて非常に面白かった℃-ute関連作品を挙げておきましょう。
いきなり入手困難なFC限定(販売期間終了)もので申し訳ないんですが、キューティーランド2の『真冬の寝る子は℃-ute』は、この点からもマジおすすめ。「立場の強い者がカミ手、弱い者がシモ手」の原則が徹底されていて、だからこそシモ手から迫る来夏の爆発によりカタルシスがあるわけです。しかもあらかじめ、
リ ・一・リ<いい? ルーム長
リ ・一・リ<あなたは今からそこにある料理の材料を持ってシモ手の袖にハケていくでしょう
リ ・一・リ<そしてもう二度とシモ手から登場することはないでしょう
というセリフで、「カミ手シモ手には意味があるんですよ」ということまで匂わせておく親切さ。これは「これも何かの縁だから、演劇に興味を持ってくれると嬉しいなぁ」という塩田さんはじめオトムギさんの情熱と誠意だと感じましたね。


左右だけでなく「上下」まで活用していたのが『携帯小説家』。

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「上から目線」という言葉がある通りの関係と考えていいわけですが、大先生の尊大さをより強調する役目を果たしていたのが印象的でした。
左右に関しては一歩進んだ使い方をしていて、大先生の頑なな心を開く一言、大先生が最後に清香に贈った言葉がともにシモ→カミの方向で語られるわけですが、全部見てからあらためてもう一度見ると、逆転のパワーを感じる前者と感じない後者では印象が違ってくる、という恐るべき二段構え。これは演技なのか演出なのか、機会があったら太田さんやあいざわさんに訊いてみたいですね。あるのかなそんな機会。


もちろん『らん』初演版も、これらの点は大きく外すことはなかったと記憶しています。new versionのステージ構成を伝え聞くにその部分でも挑戦があるようなので、ますます期待は高まっております。

*1:そういえば横スクロールのゲームにも、マリオ、グラディウスR-TYPE魔界村、・・・左から右へ移動するのって多いなぁ。無関係とは思えないよね。