昨夜の夢

・・・が元ではあるんですが、妄想で色々とふくらませていったらなんかわけのわかんないものに(苦笑)。


今日は町内のマラソン大会。うちのクラスの矢島舞美が出場するんだけど、こいつが速い。男子でも陸上部で長距離やってるヤツ以外はかなわないんじゃないかってくらい。当然2年連続で高校女子の部1位。今年も当然1位だろうから、ゴールでその姿を目に焼き付けるのが今日の俺の楽しみだ。


走るだけじゃなくあちこちの部から助っ人を頼まれるくらいスポーツ万能。でも本人は「一つに絞れなくってさー」なんてことを言ってなぜか演劇部(笑)。こっちも才能があるみたいで、文化祭ではシオタ先生やOBのアイザワ先輩が絶賛してたっけ。
誰にでもふんわりと接してくれるから男子にも女子にも人気があって、特に演劇部の後輩の中島とか有原が積極的(笑)。わかる、かわいいよなー。
「舞美のこと好きなんでしょ? 授業中よく見てるもんねー」
矢島と小学校から一緒の大親友らしい梅田さんによくそうからかわれる俺。ほっとけ。・・・図星だよ。「存在感薄いくせにいきなり熱く語りだす」「すぐ一人の世界に入る」「基本的にわけわかんない」とか言われて友達の少ない俺に優しくしてくれる、いや普通に接してくれるのは矢島と梅田さんくらいなんだよ。
「じゃあ雨が降ると『矢島またかよー』とかいうのやめなよ。あのコけっこう気にしてるんだから。運動部入らなかったのもそのせいだし」
あー・・・いや、なかなか話しかけるきっかけなくてさぁ、ついね。
まぁだいたいそんな感じ(どんな感じ)。


しまった、ゴール前に学校の連中がいっぱいいる。なんか恥ずかしいから俺はちょっと離れたところにスタンバイ。(笑)。
天気は快晴。なるほど、機嫌いいな矢島。頑張れよ。


途中は省略して、いよいよ先頭集団がゴールに向かってやってくる頃合。角を曲がってやってきた矢島は・・・2番手!?
先頭は隣のクラスのテニス部の奴。普段から矢島に対抗心を持ってて、「矢島に助っ人頼むなら県大会だって不戦敗でけっこう」とか言っちゃってるイヤな女だ。そのせいか女子テニス部は数少ないアンチ矢島のすくつ(変換できない)と化している。だから「テニブス」とか言われるんだよ。
ゴールの校門(うちの高校)までは一直線。抜けない差じゃない。矢島頑張れ。矢島が負ける姿なんて見たくないんだ。


その瞬間。
俺の中で何かが弾けた。


「矢島ーっ! やじまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
俺は絶叫しながら駆け出していた。矢島はちょっとびっくりしたみたいだけど(当たり前か)、そこからさらに一段スパートをかけた。一瞬ニコッとしたような気がしたけど、気のせいだろうか。
さすがにもう追いつけない。でも俺は必死で走った。
矢島と一緒に走りたい。頭の中にはそれしかなかった。


あっさりとテニブス女を抜き去る矢島。あとはゴールテープを切るだけ。
そう思った瞬間、俺は目を疑った。


ゴールの手前に選手が一人いる。あれは・・・こいつもテニス部だ。
わざとテープを切らず、足を止めてニヤニヤこっちを見ている。
インチキだ。矢島を潰すために何かやりやがったな。
でもなぜか周りは気づかない。
「違反だ! そいつをどかせ!」
叫ぼうとしたけど、さっきあれだけ出たはずの声が出てこない。


矢島の脚が止まった。そのまま駆け抜けちゃえばいいのに、人がいいというか何というか。
いくら矢島の脚が速くても、テニブス2号はあと一歩踏み出せばゴール。絶対に間に合わない。
ようやく追いついた俺もその場に立ち尽くす。
そんな俺の方を向いて。
矢島は、笑顔を見せた。
泣いてるみたいな笑顔だった。


(ここで目が覚めたわけですが、ものすごくイヤーな気分でしたw)


どうやって帰ったか覚えてないのだけど、その晩から熱を出した俺は、翌日学校を休んだ。今ごろはいきなり絶叫しながら沿道を走り出したバカ野郎の話題で持ちきりだろう。矢島にも悪いことしたなぁ。合わせる顔がない。
ウツダシノウな気分で布団にくるまっていた夕方、玄関のチャイムが鳴った。寝てるふりして放置しようかと思ったけど、ちょうど家族も不在だったし、なんとなく出てみた。
制服の矢島がいた。


「風邪? 大丈夫?」
「熱は下がったけど・・・うつるから寄るなよ」
どどどどうしよう。こういう場合って、玄関で立ち話も何だから、とか言って家に上げちゃっていいものかどうか。あーまた熱が上がりそう。
結局家に上げるのはやめにして(チキンだ俺は)、逆に途中まで送ることにした。もちろん矢島は遠慮したんだけど、二人っきりで話せる機会を逃してなるものか。厚着すれば大丈夫、と必死かつ強引に説得して表へ出た。
「・・・ありがと。応援してくれて」
「ありゃあないよなぁ。どう考えたってズルじゃん」
「でも、ゴールが認められたんだからしょうがないよ」
そんなことを話しながらとことこ歩いて、早くも大通りに出ちまった。タイミング的にここまでだよなぁ。
「意外と脚速いんだね、とか言ってw」
「ほめられてる気がしませんが何か」
「ほめてるよぉ。抜かされるんじゃないかと思ったもん。思わず本気出しちゃった」
どんだけ負けず嫌いなんだろね。・・・かなり悔しかっただろうな。


また俺の中で何かが弾けた。
「・・・あのさ」
「なぁに?」
「また、一緒に走っていい?」
矢島はあの時と同じようにびっくりしていた。そりゃそうだ、言った本人だってびっくりだよ。そんなこと考えたことなかったし。
でも・・・いいかもしんない。なんか知らないけど、あの時めちゃめちゃ楽しかったもの。


「・・・いいよ」
背中を向けてちょっと考えたっぽい矢島がそう答えた。
「でも、あたし速いよ? ついてこれる?」
ニッコリ笑って挑発してきた矢島の顔がちょっと赤くなってたように見えたのは夕陽のせいだろうか。
「・・・頑張る」
そう、頑張って走る。追いつけなくても一緒に走る。だって楽しいもの。
とにかく俺は、矢島と一緒に走りたい。


「じゃあ明日学校で」と、そこで俺たちは別れた。握手とかしちゃってどこの青春ドラマなんだか。
・・・矢島って握力も強いんだな。