示唆に富む

ガンプラサポーターズ/富野由悠季監督(前編)
同(後編)
うーん・・・富野カントクはどちらかというとガンプラとかメーカーに苦しめられ続けた立場だと思うんだが(苦笑)。
それはさておき、僕がカントクの言葉に触れるのが大好きなのは、ガンダム好き、アニメ好きにしか通用しない程度の話をしないからなんです。ずいぶん前にUPされたもののようで今さら感もあるのですが、やはり勉強になります。



 映画化になった時に「アニメ新世紀宣言」というイベントをやって、新宿に一万人近い人を集めたのだから凄いじゃないか、って言い方があるんだけれど、そんなのは、今から30年近く前のことを記事にすればそう書くだけで、「これだけ人を集めておいて、事故が起きたら今後、ここで集会なんかできなくなるぞ!!」としか、その時は思いませんでした。


 当時は、その前までにあった安保闘争からはじまっている学生運動の名残があって、若い人が集まってきたという雰囲気がありました。


 そういう記憶が一応収まったかなという時期に、得体の知れない若者が1万人ぐらい新宿駅前に集まったのを見て、機動隊が入って袋だたきにあわないためにどうするかってことしか考えてなくって、人気の意味なんか考えていませんね。


 朝の7時、8時ぐらいになったときかな、連絡が入って
「えっ、やっぱり5000を越えたっ? 冗談じゃない! ばらせっ!!」って、僕はそれしか言わなかったし、時代が変わったという認識は持てませんでしたね。


 新宿界隈でのイベントが行えるようになったのは、つい最近のことなんですよ。今では普通にビジネス関係のイベントで何となく人を2、300人集めてたりしますけれど、10年前はそれすら禁止だったのは、あの時の集まり方の影響でしょうね。人を集めて良かったという話は、この10年ぐらいの風潮でしかないんですよ。今、人を集めたらやばいという発想は、誰もしていないですよね。20万人をライブで集めちゃったけど、今度やったら機動隊を出すぞって話、どこからも出てこないでしょ。

ああ、そういえば人が集まるとお巡りさんがすっ飛んでくる時代ってのはありましたね。1980年代の中ごろあたりまでかなぁ。
集会ってのは反政府運動の活動家がやるもので、アジ演説やビラ配り、デモ行進、果ては投石だ火炎ビンだ・・・という意識。今でも公共スペースの禁止事項に「集会」が含まれるのはその名残、ということにまったく気づかずに生きていましたわ。あの頃の危機意識で考えると、不特定多数の怪しげな風体の人間が出入りするHNKNは「過激派のアジト」と思われて当局の監視下におかれたに違いない(笑)。
あれ、そういえばこの間の℃-uteコンにビラ配りに来てた人たちがいたような(苦笑)。ま、あそこは「アイドルのふりをした市民団体」だから色々な意味で間違いはないのだけれど。


この後話は「趣味とは」「趣味のアイテムを提供する企業のあり方とは」という方向に進んでいきまして、ガンプラに留まらない普遍性を帯びた刺激的な言葉に次々と出会えます。無理強いはしませんが、よかったらご一読を。


 どうしてメルクリン*1が経営的にしんどくなっていったのか? という理由の一つとして考えられるのは、ミニチュアモデル、鉄道模型はこうあるべきという、あまりにもマニアックな単純思考に陥ってしまったということです。そして、もう一つが、メルクリンの持っている、技術的にハイスペックすぎる商品は一般化しなさすぎたということなんです。だって、鉄道模型を自分で組もうと思ったら、多少勉強しないと組めないし、ちゃんと走らせられない、かなりの場所もいるしというリスクがあります。そういうものを払拭するために、メルクリンはボストンバッグ型のジオラマとかを一所懸命作ったけれど、ああいう中途半端な商品戦略が自分たちの首を更に絞めてしまったのではないかとも思います。

 Favoriteとは何なのか。それはおそらく“飽きないこと”ってことで、結局最後は「飽きないこととは何だろう」って問題に突き当たってしまうんです。そこには、どうしても属性が必要なんです。

 今回の30周年企画で分かったのは、ファンを獲得する、ファンのためにってことだけを考えていくと、商売は先細りしていくだけです。イベント会場でのグッズの買い方を見て、彼らを狙い撃ちをした方がいいという意見はあるんだけど、それはちょっと危険です。イベント会場で大きなパッケージを5つも6つも積んで買ってくれる人っていうのは、そんなには多くはないからです。裾野を広げていくためには、買いやすい物や廉価版をきちんと用意すること。ガンダム関連のイベントなんかで、とくに今の営業は、ちょっと腰が引けていると思います。商品が足らなくなるというのは、マーケット・リサーチに問題があるのではないかと思っています。ファンしか見ないマーケット・リサーチでは、 400万人には対応できないでしょう。

 「私の趣味はこれです」っていってもらえるホビーに大切なことは、その人の誇りを示すものじゃなきゃならないということです。だからちゃちな物じゃ困るんですよ。そこには趣味性の持っている力があって、「私はこういう趣味を持っていますよ」っていうのは、プライドの表明なんです。ただ好きなだけでは、趣味とは呼べません。そういう感性を、もっともっと我々が身につけていく必要があるし、その方向にこそ商品化していく意味があるのではないでしょうか。

この人の言葉はいつも本気だな。大事にしないといけないよ。

*1:世界最大の鉄道模型メーカー。2009年2月に破産申請。